【ステップ3】
SOVの切り分けがある程度できるようになったら、次は少し複雑な構造の文を扱ってみましょう。まずは、これまで通りSVの確認から。
- 問題3
次の文の主語の後ろと述語の前に「/(スラッシュ)」を入れなさい。
1 オスカルは アンドレに 家まで 剣を 取りに行かせた。
2 道雄は 親友の 茂に 自分の 絵を 手伝ってもらった。
3 なんでも よつばちゃんは 外国で 小岩井さんに 拾われたそうだ。
4 背の 高い 少女は 自分の 猫を マヤーと 名づけた。
5 21世紀の 現在では もう 妖怪や もののけを 恐れなくなった。
(問題3 解答と解説/SOCV・使役・受動)
最初に「少し複雑」と書きましたが、いやいや、実際にはよく目にする文ばかりですよね。ただ、私たちの日常会話のように単語だけを拾うような読み方をしていると、細部がわかりにくくなってしまうという意味で、ちょっと注意が必要なグループです。
では、まずはお約束のSV構造から。
1 オスカルは/アンドレに 家まで 剣を/取りに行かせた。
→「オスカルは」が主語で、「取りに行かせた」が述語。
2 道雄は/親友の 茂に 自分の 絵を/手伝ってもらった。
→「道雄は」が主語で、「手伝ってもらった」が述語。
3 なんでも よつばちゃんは/外国で 小岩井さんに/拾われたそうだ。
→「よつばちゃんは」が主語で、「拾われたそうだ」が述語。
4 背の 高い 少女は/自分の 猫を マヤーと/名づけた。
→「少女は」が主語で、「名づけた」が述語。
5 21世紀の 現在では もう 妖怪や もののけを/恐れなくなった。
→主語はない。「恐れなくなった」が述語。
#主語がない文、というのは日本語では珍しいことではありません。そもそも日常会話のほとんどは、こうした主語のない文で会話していると言うこともできます。ですから、こうしたケースでは「省略されている主語は何だろう?」と推理しなくてはなりません。
- 問題3+1
このタイプでは不足しているものがあるだけではなく、SOCVの「つながり」がわかりにくくなっています。では、引き続いて( )の中の問いに答えてみましょう。
1 オスカルは/アンドレに 家まで 剣を/取りに行かせた。
(取りに行ったのは誰?取りに行ったのは何?)
2 道雄は/親友の 茂に 自分の 絵を/手伝ってもらった。
(手伝った人は誰?手伝ってもらった人は誰?)
3 なんでも よつばちゃんは/外国で 小岩井さんに/拾われたそうだ。
(主語を「小岩井さんは」、とするとどうなる?)
4 背の 高い 少女は/自分の 猫を マヤーと/名づけた。
(マヤーは何者?)
5 21世紀の 現在では もう 妖怪や もののけを/恐れなくなった。
(妖怪やもののけを恐れなくなったのは誰?)
(問題3+1 解答と解説)
1 オスカルは/アンドレに 家まで 剣を/取りに行かせた。
→取りに行った「人」はアンドレ。取りに行った「もの」は剣。この区別は問の「誰」と「何」でわかる。
#この文は「Sは/O1に/O2を/Vさせる」という文型で、「使役の文」と呼ばれます。Vのところが「せる」、「させる」になっていることに注意。
また、この文はO1を主語にして、「O1が/O2を/Vする」というふうに書くこともできます。
(例)アライグマくんは(S) シマリスくんに(O1) ドングリを(O2) 拾わせた(V)。
→シマリスくんは(こっちではSに!) ドングリを(O) 拾った(V)。
2 道雄は/親友の 茂に 自分の 絵を/手伝ってもらった。
→「手伝った」人は茂。手伝って「もらった」人は道雄。
#この文は道雄の視点から見ているから、「......手伝ってもらった」ですけど、茂の視点から見たら「茂は 親友の 道雄の 絵を 手伝ってやった」あるいは「茂は 親友の 道雄が 絵を 描くのを 手伝った」とでもなるでしょう。こういうやりとりの関係を「受給表現」と呼びます。視点が変わると、同じことでも違った表現で表せるんですね。
3 なんでも よつばちゃんは/外国で 小岩井さんに/拾われたそうだ。
→なんでも 小岩井さんは/外国で よつばちゃんを/拾ったそうだ。
#英語でよく出てくる「能動/受動」の書き換えです。この書き換えがピンと来なくて英語嫌いになる人が多いんですよね。この文も2と同じく「視点の変更」の練習に過ぎませんから、ついでにここで苦手意識を克服してしまいましょう。
「Sは/Oを/Vする」 → 「Oは/Sに/Vされる」となります。同じことですが、誰から見ているかが違うんですね。ちょっと練習してみませんか?
(例)1 飼い犬に手をかまれた。
2 ウルトラマンは怪獣ゼットンに倒された。
3 バナナの皮で転んでみんなに笑われた。
1→飼い犬が(私の)手をかんだ。
#問題3の5でやったように、文意をはっきりさせるためには省略されたものを補う必要が出てきます。
2→怪獣ゼットンはウルトラマンを倒した。
3→(僕が)バナナの皮で転んだので、みんなは(僕を)笑った。
#これも同様に、省略されている主語を補います。英語の苦手な人の多くは、この「省略されたものを補う」習慣がついていません。それは英語と国語の発想の違いなのですが、まずは国語として練習すると効果的です。
4 背の 高い 少女は/自分の 猫を マヤーと/名づけた。
→マヤーは猫。この構文は「SはOをCと呼ぶ(これがV。他にも名づける、見なす、など)」の形をとり、O=Cになっている。
#この文は「少女は/名づけました」+「その猫の名前は/マヤーです」という二つの内容からできています。複雑な形ですが、抽象的な内容を含む文章では、「OをCと見なす」とか「OをCとして見る」という文(見立てる文)は、かなり頻繁に出てきます。
たとえば、次のような文はどうでしょう。
(例) 近代西洋思想は合理主義によって世界を捉えているため、客観的な数値によって表現することのできない精神的な現象を非合理的で意味のないものと見なしてきた。
言葉をわざと難しくしてありますが(いぢわる・笑)、ここは構文で切ってしまいましょう。「/」でSOCVを切り離せば、たったこれだけのことです。
→近代西洋思想は(S)合理主義によって世界を(O1)/捉えている(V1)ため、客観的な数値によって表現することのできない精神的な現象を(O2)/非合理的で意味のないものと(C2)/見なしてきた(V2)。
「。」のあるところが中心なのだから、V2をもとに全体をまとめましょう。すると、この文の骨組みは「近代西洋思想は(S)」、「精神的な現象を(O2)」、「意味のないものと(C2)」、「見なしてきた(V2)」、となります。
うわあ、ずいぶんシンプルになりましたね!単語がわからないと難しい文を敬遠しがちですが、それでも手がかりはちゃんと見つかります。国語が苦手だとあきらめてしまわず、少しずつ目標へ進んでいきましょう。
5 21世紀の 現在では もう 妖怪や もののけを/恐れなくなった。
→「われわれは」あるいは「日本人は」。または21世紀というニュアンスをくんで「現代人は」でも可。
#これは省略を補う問題ですから、ほんとうは前後の文脈でしか決まりません。答えがあらかじめ決まっていると思っていた人、ごめんなさい。
【ステップ1~3のまとめ】
ここまでは、一つの文の中にSVがひと組だけしかないものに限定して扱ってきました。次のステップ4からは、Sが文の形になっていたり、SVが何組もあるような文にチャレンジします。
でも、まずその前に、ここまでやったことの確認をしておきましょう。
文の骨組みを見つける練習をしておくと、もっと長い文になったときに役立ちます。たとえば、これはセンター試験(1993年追試)の選択肢です。
言葉は、各時代・各地域ごとに共同体を形成している言語社会の構成員にとって価値的な思考・判断の源泉となるものだ。
文末だけ変えてありますが、これもやはりSV型の文です。Vが「ものだ」では何のことかわかりませんから、意味がわかるところまで伸ばしてみましょう。ここではとりあえず、SV以外の部分も切ってあります。
↓
言葉は/各時代・各地域ごとに共同体を形成している言語社会の構成員にとって/価値的な思考・判断の/源泉となるものだ。
スラッシュを3本入れただけで、「言葉は」、「言語社会の構成員にとって」、「源泉となるものだ」という骨組みがはっきりしました。
(注)これでも今ひとつ意味がわかりにくいようなら、もっと述語を長く伸ばして、「価値的な思考・判断の源泉となるものだ」としてもかまいません。
もちろん、より細かい部分を理解するには「単語力」も、「文脈力」も必要ですから、すべての霧が晴れる、というわけにはまだいかないでしょう。ただ、文の骨組みをはっきりさせるために、この「構文力」がかなり有効な方法であることは、納得してもらえたのではないでしょうか。
さあ、ではいよいよ次のステップに入ります。ここからは応用レベルになるので、『一生使える国語力』・第2章をもう一度しっかりと読んでおいてくださいね。