第2章=構文力――SОVの剣を使いこなす【ステップ4】

最後は応用として、SOCVのそれぞれが「S+V」に置き換わる複雑な文を取り上げてみましょう。

【ステップ4】
構文力の基礎、すなわちSOCVの基本ルールをマスターしたら、ここでもう一つ新しいルールを覚えましょう。
それは、日本語ではSOCVのどの部分も「SV」で置きかえることができる、ということです。実例を通して、いっしょに考えていきましょう。
 
(例)
1 君がピアノを弾いてあげることは/ミルヒーにとって/とてもよいなぐさめになるだろう。
→Sが「君が/ピアノを/弾いてあげる(こと)」という文になっている。主語の場合には「~ということは」「~というものは」などの形になることが多い。これを形式名詞と言う。
 
2 エドガーは/メリーベルがアランを好きになることを/こころよく思っていなかった。
→Oが「メリーベルが/アランを/好きになる(こと)」という文になっている。「こと」はSの説明と同じく「形式名詞」で文を一つの固まりにするときに使う。
 
3 聴衆は/その聞くにたえない曲を/クラウザーさんが自分たちを試そうとしているのだと/受け取った。
→Cが「クラウザーさんが/自分たちを/試そうとしているのだ(と)」という文になっている。「~の」も形式名詞。
 
4 サトシのゲットした電気ネズミは/たいへん気性が荒かった。
一つの文に「~は」と「~が」があるときは、「~は」の方を主語(S)と考えます(2章の42ページ)。ここでは「気性が/荒かった」全体が述語(V)に当たると見ています。
 
5 ツネコちゃんとキリコちゃんが買ってきたおみやげは/ギョギョームという名前で呼ばれる/商店街でも人気の/ケーキだった。
→「ツネコちゃんとキリコちゃんが買ってきた」という文が、Sである「おみやげは」を修飾しています。おなじように「ギョギョームという名前で呼ばれる」という文は、Vである「ケーキだった」を修飾しています。
 
先ほどはきちんとふれませんでしたが、じつは「修飾語(他の言葉をくわしく説明するもの)」も文の形をとって長くなることが可能です。......なんだか、どれもこれも長くなって、大変ですよね。
「修飾語(Mで表すこともあります)」は「飾り」なので、「骨組み(SOCV)」と違って、なくても全体の意味は通じます。ということは、ある部分が骨組みかそれともただの修飾語かは、意味からも決めることができる、ということになりますね。
 
さて、こんなふうに文が複雑になってくると、構文力の基本をマスターできているかどうかが大事になってきます。では、ここでまとめとして大学入試の文章で確認してみましょう。
 
【練習】「SOVの剣」を使って、次の文が読みやすくなるように「/(スラッシュ)」を入れてください。
6 人間の脳は、長い進化の歴史の中で言えば一瞬前に出現したと言える自動車という新しいツールにも、大脳皮質の頭頂葉の神経細胞の活動によって支えられる「車両感覚」という身体イメージの拡張をもってすぐに適応してしまう。
(2006立教/茂木健一郎『モバイル・コミュニケーションが活性化する脳内の文脈依存性ダイナミクス』)
 
さて、いかがでした?
★「は」や「に」があるたびに切ってしまった場合
→人間の脳は、/長い進化の歴史の中で言えば/一瞬前に/出現したと言える/自動車という新しいツールにも、/大脳皮質の頭頂葉の神経細胞の活動に/よって/支えられる「車両感覚」という身体イメージの拡張を/もってすぐに/適応してしまう。
#これでは、骨組みが思いきりわかりにくなります。残念、まだ「剣」を使いこなせていませんね。
 
☆構文力のルールに従って、文末から探していった場合
(1) →まず、SVだけ切ってみる。
 人間の脳は、/長い進化の歴史の中で言えば一瞬前に出現したと言える自動車という新しいツールにも、大脳皮質の頭頂葉の神経細胞の活動によって支えられる「車両感覚」という身体イメージの拡張をもって/すぐに適応してしまう。
 
(2) →Vにかかっていくことができるところは「/」を入れてもよい。そうでないときは、入れないでおく。
人間の脳は、/長い進化の歴史の中で言えば一瞬前に出現したと言える自動車という新しいツールにも、/大脳皮質の頭頂葉の神経細胞の活動によって支えられる「車両感覚」という身体イメージの拡張をもって/すぐに適応してしまう。
ルール(1)、(2)で、骨組みは、「人間の脳は」、「新しいツールにも」、「身体イメージの拡張をもって」、「すぐに適応してしまう」だ、とわかってしまいます。
 
ね、構文力、けっこう使えるでしょう?
 
最後にもう一度、基本ルールを確認しておきましょう。
 
1 構文力とは、SOCVの働きに従って、文全体を切り離すことのできる力です。
S(主語)=誰が、何が → 動作や様子の持ち主です
O(目的語)=誰を、何を → 動作の向かっていく相手です
C(補語) =誰と、何と → 目的語を説明します O=Cに注目
V(述語) =どうする、どんなだ(~しい)、何だ → Sの動作や様子を表します
 
2 文をSOCVに切り離すときには、必ず「。」から始めましょう。
まずSVを確認し、それからVにつながるかどうかを意識して「/」を入れていくと確実に切ることができます。
 
たったこれだけのルールをマスターすれば、複雑で長くて抽象的な文章でも、ずっとシンプルに読みこなせるようになるはずです。