第3章=単語力――意味のスコープを使いこなす

 この章では「単語」の覚え方・学び方をトレーニングしていきます。

ここでは「単語」の学習を「漢字の知識」と「評論用語の知識」に分けてトレーニングしていきます。
 
A 漢字の知識とは 
→ 「かいほう」や「けいたい」などの読み書きを中心に練習をします。知っている漢字なのにどうして使えないのか、その理由を考えるところからスタートしましょう。
 
「漢字は10回書くから覚えられない!」とはどういう意味か、問題を通じて理解してください。
 
B 評論用語の知識とは
→ 「現象」の反対語や、「特殊」の反対語など、なぜそれがペアになるのを理解することが必要になります。Aよりも広い知識が必要で、第5章の「常識力」の基礎になる部分でもあります。
 
テーマは「評論用語はネットワークで覚えよう!」です。評論用語集がダウンロードできるようになりましたので、そちらも活用してください。(PC版のみ)
 
 
さて、まずはAの「漢字知識」から始めましょうか。
 
A 漢字知識のトレーニング(『一生使える国語力』・54ページ参照)
 
【ステップ1】
 
(問)次の傍線部分を漢字に直すとしたら、もっとも適切なものはどれか。一つ選びなさい。
 
1 二人はタイショウ的な性格だ。
a 大将 b 対象 c 対照 d 隊商
 
2 容疑者の身元をショウカイする。
a 照会 b 商会 c 紹介 d 詳解
 
3 ヨーロッパの歴史にカンシンを持つ。
a 感心 b 関心 c 歓心 d 寒心
 
4 天国なんてないとソウゾウしてごらん。
a 創造 b 創蔵 c 想像 d 想造
 
5 監督交代の可能性がノウコウになってきた。
a 農耕 b 濃厚 c 農工 d 膿高
 
6 キセイ概念が新しいことをする妨げになっている。
a 規制 b 寄生 c 既成 d 既製
 
7 10代の若者がキョウイ的な新記録を作った。
a 驚異 b 脅威 c 胸囲 d 教委
 
8 地域性や文化のコユウ性を考えた援助が必要だ。
a 固有 b 個有 c 孤有 d 顧有
 
9 大切なのは結果ではなくてカテイである。
a 家庭 b 仮定 c 課程 d 過程
 
10 有名な先生のコウギだから役に立つとは限らない。
a 講議 b 講義 c 公議 d 公儀
 
 
(ステップ1・解答解説)
正しい漢字を選ぶには、漢字の意味を理解してきちんと区別できていなくてはなりません。
まずは、このステップ1で練習して、考え方を少しずつ身につけていきましょう。
 
1 二人はタイショウ的な性格だ。
→正解はcの「対照」です。ここでは、「二人」を比べていることに注目してください。
・ 「対照」=らし合わせる
・ 「対象」=働きかけていく先の「もの」。「象」は「形」という意味です。
 
2 容疑者の身元をショウカイする。
→正解はaの「照会」です。身元を確かめる、という意味ですね。
・ 「照会」=問い合わせて確かめる。
・ 「紹介」=知らないものどうしを仲立ちすること。
 
3 ヨーロッパの歴史にカンシンを持つ。
→正解はbの「関心」です。
・ 「関心」=あるものごとに興味を持つ。覚え方は「持つ」カンシン。「関わり」のニュアンス。
・ 「感心」=りっぱさに心を動かされること。覚え方は「する」カンシン。「感動」のニュアンス。
・ 「歓心」=喜ぶ気持ち。覚え方は「買う」カンシン。この「買う」には「相手の気持ちを引き出す」*というニュアンスがあります。
 *ひんしゅくを買う、恨みを買う、など
 
4 天国なんてないとソウゾウしてごらん。
→正解はcの「想像」です。ここでは「心に思い描くこと」の意味で、「想像する」は英語でイマジン(imagine)と言います。ジョン・レノンの歌で有名ですよね。
・ 「想像」=ある状態やものを心に思い描くこと。「想」*は「心の中で思う」。
 *「想起」とか「空想」とか「幻想」とか
・ 「創造」=新しいものを初めて作り出すこと。「創」*はこれまでにないものを作り出すことを表しています。
 *「創立」や「独創」など。
 
5 監督交代の可能性がノウコウになってきた。
→正解はbの「濃厚」です。可能性につながる言葉ですから「高い」、「低い」、「濃い」、「薄い」などですよね。
・ 「濃厚」=内容がつまっていることから、可能性が「高い」の意。
*反対語は「希薄」です。
・ 「農耕」=田畑を耕して作物を育てること。さすがに文中の意味に合いませんよね。
 
6 キセイ概念が新しいことをする妨げになっている。
→正解はcの「既成」です。これ、漢字の選択時にうっかりdにしてしまった人もいるのでは?
・ 「既成」=すでにできあがっていること。「既」が「すでに」、「成」は「できあがる」こと。
・ 「既製」=(製品として)すでにできあがっていること。意味だけ見ると「既成」とほとんど同じですが、材料をもとにして作るのが「製」なので、「何を作るのか」によって使い分けが必要です。
 *既成事実、既成概念、既成政党......など。
 *既製品、既製服......など。
 
7 10代の若者がキョウイ的な新記録を作った。
→正解はaの「驚異」です。「10代の新記録」から「驚き」に関係することを読み取りましょう。
・「驚異」=驚き不思議がること。
・ 「脅威」=おびやかすこと。「脅」は「おどす、おびやかす」こと。「脅迫」の「脅」です。
 
8 地域性や文化のコユウ性を考えた援助が必要だ。
→正解はaの「固有」です。「固」は「もとより」と読み、「本来そなわっている」という意味です。
・ 「固有」=他にはなく、そのものだけが持っていること。
*他の選択肢はひっかけでした。<m(__)m>
 
9 大切なのは結果ではなくてカテイである。
→正解はdの「過程」です。始まりから結果に行くまでの道のりを「過程」と言います。「過ぎてきた・道のり」のこと。
・ 「過程」=ものごとが変化しながらたどっていく道すじのこと。プロセス。
生長過程、配送過程など。
・ 「仮定」=事実かどうかはっきりしないことがらを、仮に事実だと定めてみること。
・ 「課程」=学校などで一定期間のうちに順序立てて学ぶこと。
 
10 有名な先生のコウギだから役に立つとは限らない。
→正解はbの「講義」です。先生、役立つというところから読み取りましょう。なおaの「講議」は引っかけ問題で、「議」の文字が違います。
・ 「講義」=大学などで行う授業の形式。「授業」よりも高級で、しかし一方的なニュアンスがある。
・ 「公儀」=公的なことがら全般(私的でないこと)を指す言葉です。
*「公儀の隠密」などと時代劇で言うときには、幕府や朝廷など公権力のことを指しています。入試には絶対出ませんけどね、こんな知識。(笑)
 

【ステップ2】
11 決勝の試合会場はイヨウな熱気につつまれていた。
a 異様 b 違容 c 異容 d 違様
 
12 世界遺産のカンキョウ保全に全力を尽くす。
a 感境 b 環境 c 還境 d 簡境
 
13 病気はだんだんカイホウに向かっていった。
a 解放 b 介抱 c 開放 d 快方
 
14 同窓会で初恋の人とサイカイした。
a 再開 b 再会 c 最下位 d 斎戒
 
15 物語のシュウキョク近くになるともう涙が止まらなくなった。
a 終曲 b 終局 c 終極 d 褶曲
 
16 利潤のツイキュウが企業の本質である。
a 追求 b 追及 c 追給 d 追究
 
17 天候フジュンの影響で野菜の値段が高騰している。
a 不純 b 不順 c 不巡 d 不循
 
18 イシハラ先生が「よい予備校の見分け方」についてコウエンした。
a 公演 b 講演 c 後援 d 好演
 
19 若いころは乱暴者だったがいまではすっかりコウセイした。
a 更生 b 厚生 c 構成 d 公正
 
20 親だからといって子供の就職にまでカンショウしてはいけない。
a 鑑賞 b 緩衝 c 感傷 d 干渉
 
(ステップ2・解答解説)
11 決勝の試合会場はイヨウな熱気につつまれていた。
→正解はaの「異様」です。「ふつうでない様子」のこと。こっちが不安になったりドキドキするようなものに使います。
*同じような意味ですが、「異」という字は「ふつうではないこと」、「違」という字は「正しくないこと」というニュアンスがあります。
他の選択肢はどれも間違った漢字の組み合わせでした。まぎらわしいので、迷ったら一度大きく書いてみることをおすすめします。
 
12 世界遺産のカンキョウ保全に全力を尽くす。
→正解はbの「環境」です。「私たち(人だけでなく動物や自然や人工的なものも含みます)を取りまく世界」を表しています。
*「環」は「ぐるりとめぐること」、「還」は「もとにもどること」という意味です。使い分けで迷ったら、このことを思い出してください。
 
13 病気はだんだんカイホウに向かっていった。
→正解はdの「快方」です。「快」は「こころよ・い」と読みますが、もともと「病気が治ってくること」という意味があります。
・ 「解放」=つながれて身動き取れない状態から自由にすること。「解く」+「放つ」。
*この場合「放つ」が「自由に」の意味を持っています。たとえば「釈放」や「自由奔放(ほんぽう)」など。
・ 「開放」=門などの制限を取り払って、自由に出入りできるようにすること。「開ける」+「放つ」。
 
14 同窓会で初恋の人とサイカイした。
→正解はbの「再会」です。「再び」+「会う」と分析してみるとわかりやすいでしょう。
・「再開」=いったん終了していたものを、もう一度始めること。
 
15 物語のシュウキョク近くなると、もう涙が止まらなくなった。
→正解はbの「終局」です。「ものごとが終わること。あるいは終わりの段階にあること」の意味で、これは「終わりの/局面」と切ってみると意味がわかりやすくなりますね。
・ 「終極」=「ものごとが最後に行き着くところ」。これは「終局」に似ていますが、「最後に極める一点」をイメージできるようなものに使います。
*「終極の目的」とは言いますが「終局の目的」は言えません。他方、「交渉が終局を迎えた」とは言えますが、「交渉が終極を迎えた」では意味が通じません。このように漢字一文字の意味・ニュアンスに注目することで、不用意な書き間違いを減らすことが可能です。
 
16 利潤のツイキュウが企業の本質である。
→正解はaの「追求」です。「目的のものを追い求めること」の意味になります。いちばん一般的な「追い求める」が、この「追求」です。
*いろんな「ツイキュウ」があってまぎらわしいのですが、「何を追いかけるか」に注目して、使い分けを見抜きましょう!
・ 「追及」=「責任や失敗を追いつめて問いただすこと」。「及第」や「言及」のように、「及」に「およぶ・届く」というニュアンスがあります。
・ 「追究」=「わからないものをどこまでも考え抜こうとすること」。「研究」や「究明」のように、「究」は学問と関係する言葉が多いのですが、これは「究」に「ものごとをきわめる」というニュアンスがあるからです。
 
17 天候フジュンの影響で野菜の値段が高騰している。
→正解はbの「不順」です。意味は「順調ではないこと」。「天候不順」は「天候が順調ではないこと」という意味になります。
*「不」はあとに来る言葉を否定して、「〜ではない」という意味を持った熟語にします。
・ 「不純」=「純粋ではないこと」。打算や道徳的でない考え・行為は純粋とは言えない。
 
18 イシハラ先生が「よい予備校の見分け方」についてコウエンした。
→正解はbの「講演」です。意味は「大勢の人に向けて、あるテーマについて話すこと」。「講」は「すじみち立てて言葉で解き明かすこと」です。
・ 「公演」=「(演劇・音楽・舞踊などを)公開の場で演じること」。こちらは「解き明かす」のではなく、「演じる」ものに使う。
・ 「好演」=「すぐれた演技や演奏をすること」。「好」は「良好な」の意。
 
19 若いころは乱暴者だったがいまではすっかりコウセイした。
a 更生 b 厚生 c 構成 d 公正
→正解はaの「更生」です。「好ましくない状態が、もとのよい状態に戻ること」で、「更」の字に「かえる、あらたまる」の意味があります。
*変更、更新、更衣、更迭......などの熟語からもそのニュアンスがわかりますね。
・「厚生」=「生活を豊かで健康なものにすること」。「厚」は「思いやりがある、手厚い」。
福利厚生、という言葉でイメージはつかめるでしょう。
 
20 親だからといって子供の進路にまでカンショウしてはいけない。
a 鑑賞 b 緩衝 c 感傷 d 干渉
→正解はdの「干渉」です。意味は「他人のことに口出しして、自分の思い通りにしようとすること」。「干」には「ほす」だけではなく、「おかす、みだす」という意味もあります。
・「鑑賞」=「(音楽や絵画など人の作った)芸術作品の優れた点を理解し味わうこと」。(例)「名画の鑑賞」。
*「観賞」=「(自然の動植物や風景などの)美しさを見て楽しむこと」。(例)「熱帯魚の観賞」。
・「緩衝」=「対立するものどうしがぶつかる衝撃をやわらげるもの」。「緩」は「ゆるやか」なこと。
・ 「感傷」=「なんとなくさびしかったり哀しかったりすること」。いまでは「なんだかセンチメンタルな気分」という方がわかりやすいかもしれない。
*ところでオジサンが「感傷的」なのはギリギリOKだが、「センチメンタル」は許されない気がするのはなぜだろう?