携帯用「評論用語集」・Step2(ver.1.0)

ステップ2 まず「一文字」に注目しよう

単語力を確実に増やすには、評論用語を作っている「漢字の意味」を理解するのがてっとりばやい。ここでは、二つのルールを覚えておこう(ちなみに、これは『一生使える国語力』の第三章で学んだことと同じ)。

1 漢字の意味は「訓読み」することで理解できる
2 漢字の意味は「同じ文字を使った熟語」からも推理できる

1は、たとえば、「現象=現れた、形」などと読み下してみるとわかりやすくなる。
2は、たとえば「観念」、「理念」、「概念」、「念願」......の「念」などに注目してそのニュアンスをつかむこと。ここでは「念」=「心に思うこと」くらいの意味になる。

こうして、未知の言葉が出てきたら「この言葉を作っている漢字の意味は......」と考えることが出来るようになる。するといつの間にか読解力も向上しているというわけだ。


さらに、このステップではさらにもう一歩進んで、いくつか対(つい)になる漢字を集中的に覚えてしまおう。こうすることで「対義語」を一気に増やすことが出来るはず。

3 「対」になる漢字を覚えて暗記の効率をアップしよう!

対義語を覚えると、これまた読解力が向上する。
というのも、「対」になる言葉の相棒が出てきたら、「おや、この反対語が(あるいは同義語が)どこかに出てくるんじゃないか、と気にしながら読んでいけるようになるし、必要に応じて補って読むことも出来るからね。

試験本番で役立つのは丸暗記した知識ではなくて、こうしたネットワーク化された知識と、そこから生まれる健全な推理力の方だ。

以下、熟語によく登場する漢字をセットで示しておく。漢字の意味も付けておいたので、いっしょに覚えてほしい。

1 主 ←→ 客
「主」は「自分からする」。「客」は「主に〜される(受ける)」という意味がある。この二つはセットになっていることを忘れないように。

☆主観......物事を自分からとらえる側。ようするに人間のこと。「主観的」となると、「その人だけの」という意味になる。
☆客観......主観によって見られる側。ようするに物のこと。「客観的」となると、「誰が見ても同じ」という意味になる。

☆主体......行動する側。主観よりも「する(行為)」にアクセントがある。「主体性」とは「誰かにしろと言われなくても、自分の意志で行動する(できる)こと」。
☆客体......主体のするあれこれの行為を受ける側。そこから「物質・自然」の意味にもなる。


2 未 ←→ 既(き)
「未」は「まだ〜ない」、「既」は「すでに〜である」。時間の流れのなかで「ある」か「ない」かを比べるペアの漢字。熟語の対も多い。

☆未知......今のところはまだ知らないということ。
☆既知......今ではすでに知っているということ。


3 内 ←→ 外
「内」は「うち」、「外」は「そと」。この対比は評論文によく出てくる。

☆内在......そのものの内部に、欠かせないものとして存在すること。
☆外在......そのものの外部に、(たまたま)存在すること。

☆内発......ある出来事が内から(自分の力で)起きること。
☆外発......ある出来事が外からの力によって起きること。日本が西洋文明を受け入れたのは「外発的」だ。

☆内包(ないほう)......内部に含み持つこと。また、ある考えに含まれる性質も言う。例えば、「ほ乳類」の内包は「乳で育つ」、「卵を産まない」など。
☆外延(がいえん)......ある考えの当てはまる範囲。一つ一つの具体的なものを指す。例えば、「ほ乳類」の外延はパンダ、ウサギ、コアラなどの動物。
#どちらも論理学の用語。評論の作者が必ずしもちゃんとした用い方をしているわけではないので、内と外に注目して読めればよい。


4 自 ←→ 他
「自」は「このワタシのもの」であることを表し、「他」は「自分以外のモノ」であることを表す。

☆自律(じりつ)......自分の意志でルール(=「律」)を選び、それに従うこと。
☆他律......自分でないものの力によって、ルールに従わされること。

☆自我......他のものと区別される「私だけの私」のこと。→「近代的自我」参照
☆他我......他人のこと。ただし、単なる物体ではなく「自我」と同じように考え行動する主体である、というニュアンスがある。


5 異 ←→ 同(正)
「異」は「互いに違っていること」、「同」は「同じ、差がないこと」。「正」は「正しい」で、「守るべき基準となるもの」を表す。

☆差異(さい)......性質や特徴が違っていること。
☆同一......性質や特徴に違いがないこと。「同一性」は「一貫して同じである性質」。
#「差異」も「同一」も比べたときにはっきりすることだ。問題文のなかで、何と何を比べているかを見逃さないようにしよう。

☆正統(せいとう)......正しいと公認された考えや教え。「正当」と書かないように。
☆異端(いたん)......正統とされる考えや教えから外れていること。


6 進 ←→ 退
「進」は「前にでること」、「退」は「もと来たほうへ戻ること」。いずれもある基準があって、それをもとにしないと「進」も「退」も言えないことに注意する。

☆進歩......物事が次第に良い方へと進むこと。
☆退歩......物事が悪い方、旧(ふる)い状態へと戻ること。
#例えば歴史の進歩☆退歩は「民主主義」や「国民の権利」がどれだけ達成されたかで決まる。これらが先に述べた「ある基準」という奴だ。

☆進化......生物(の特定の部分)がより優れたものへと変化すること。
☆退化......生物(の特定の部分)がなくなったり役に立たなくなること。
#いずれも生物だけでなく、広く社会的な事柄についても使う。そのときは「進歩」・「退歩」と同じことになる。


7 潜 ←→ 顕(けん)
「潜」は「ひそむ、かくれていること」、「顕」は「現れている、明らかになっていること」。

☆潜在(せんざい)......物事が外に現れないで存在していること。
☆顕在(けんざい)......物事が外に現れて存在していること。
#「潜伏する」、「顕著な」なども、「潜」と「顕」の意味がはっきりでた熟語だ。


8 一 ←→ 多
「一」は「一つだけ」、「多」は「多くの」。このペアは多いので、どういう語と組み合わさって出来た熟語なのかがポイントになる。

☆一義(ぎ)......一つの意味しか持たず、他の解釈が出来ないこと。
☆多義......さまざまな意味に解釈できること。
#「義」は「(物事の持つ)意味」。「同義語」や「対義語」の「義」である。
#「一義」には「第一義」という用法で「いちばん重要な意味」となる場合がある。このときは意味の順番だから「多」はペアにならない。

☆画(一かくいつ)......すべてが同じようにそろっていること。=一様
☆多様......多くの種類があって変化にとむこと。
#「画一」=無個性、という否定的なニュアンスで用いられることが多い。


9 悲 ←→ 楽
「悲」は「かなしみ」、「楽」は「たのしみ、やすらかさ」。

☆悲観......これから起きることを悪い方にとらえ、悩むこと。
☆楽観(らっかん)......これから起きることを心配しないこと。
#「観」は「見る・とらえる」という意味。「人生観」とも言うように、単に眺めるだけでなくどんなふうに考え・意味を与えるかまで含んでいる。


10 直 ←→ 間
「直」は「じかに、間に何もはさまないこと」、「間」は=「二つのもののあいだ」。

☆直接......他に何もはさまずじかに接していること。
☆間接......あいだに仲立ちを置いて接すること。
#二つのものの接し方については直←→間でよいが、①直←→曲(直は「まっすぐな☆はっきりした様子」を表す)、②直←→傍(直は「中心となる流れ」を表す)などもペアになる。


11 能 ←→ 受
「能」は「〜できる」、「受」は「動作をうける」。これらは反対の意味ではないが、次の用語になったときペアとなる。

☆能動(のうどう)......自分から他のものに働きかけること。→主観・主体の大切な働き
☆受動......他からの働きかけを受けること。→主観と客観を区別する大事な面


12 巨 ←→ 微
「巨」は「とても大きい」、「微」は「ごく小さい」。

☆巨視(きょし)......物事を広い視野から大きくとらえること。
☆微視(びし)......物事の細かい点に注意してとらえること。
#「巨」はマクロ、「微」はミクロの訳語として使われている。「マクロに見る」なんて言う場合にも注意。


13 虚 ←→ 実
「虚」は「中身がない、からっぽなこと」、「実」は「中身がみちていること」。

☆虚構(きょこう)......頭のなかで考えられた作り事。フィクション。
☆現実(事実)......実際にある状態や事実。
#ノンフィクションは「作り事でない」という意味なので、「伝記・歴史・随筆」などをさし、「ありのままの現実」と言う意味ではない。


14 必 ←→ 偶
「必」は「必ず、まちがいなく」、「偶」は「たまたま、思いがけなく」。
☆必然......必ずある出来事が起きること(同じ条件なら次の回も同じことが起きる)。
☆偶然(ぐうぜん)......たまたまある出来事が起きること(同じ条件でも次の回には起きないかも知れない)。
#「必定」(ひつじょう)は、「必ずそうなると決まっていること」。一字に注目すると簡単にわかる。


15 理 ←→ 感(情)
「理」は「物事のすじみち、りくつ☆ことわり」、「感」は「物事にふれて起きる心の働き」。
この二つは「考えること」と「感じること」、つまり、「頭」と「心」の意味を持つペアなんだ。熟語の方も重要なペアが多いので、しっかり覚えてね。

☆理性......物事を論理的に考えることのできる能力。
☆感性......理屈ではない部分をとらえることのできる能力。感受性。
#「理」の意味から、「合理」=「理屈に合った」、「真理」=「本当に正しい考え方」などもわかる。また、「理」という文字の持つ深い意味は、後の章でもう一度学習する。


16 剰(じょう)←→ 欠
「剰」は「よけいにある、余っていること」、「欠」は「欠けていて足りないこと」。

☆余剰(よじょう)......あまり。=剰余
☆欠如(けつじょ)......欠けていて足りないこと。
#「過剰」(かじょう)は「多すぎること」。「過」も「剰」も余っていることだ。


17 因 ←→ 果
「因」は「もとになるもの」、「果」は「物事の終わり、結末」。

☆原因......「物事の生じるもとになるもの」。
☆結果......「物事によって生じた状態や物」。
#「因果」=「原因と結果」。文章を読むときには、ある出来事の何が「原因」で、何が「結果」なのかを意識するようにしよう。


18 離 ←→ 合
「離」は「距離がある、くっついていない」、「合」は「くっつきあう、集まる」。二つ以上のものの「距離」を表す。

☆分離(ぶんり)......二つ以上のものを切り離し、分けること。
☆融合(ゆうごう)......二つ以上のものが、とけあい一つになること。
#「分」は「分かれること」、「融」は「溶けること」という意味があり、どちらの用語も似た意味の漢字で作られていることがわかる。


19 物 ←→ 心
「物」は「物質」を表し、「心」は「人間の精神」を表す。「考えたり感じたりする心」と「無情な物」とを対立するものとして考えているという点が、大切だ。

☆唯物論(ゆいぶつろん)......この世界を成り立たせるものは物質であるという考え。心は物質によって生み出されるとする。
☆唯心論(ゆいしんろん)......この世界を成り立たせるのは心(精神)であるという考え。物質は心がとらえないかぎり存在しないとする。
#この世の根源は物か心かというのは、哲学の重要テーマ。身近なところでは「物理学」と「心理学」という学問があり、それぞれ「物」と「心」の「理(ことわり=りくつ)」を扱う。


20 広 ←→ 狭
「広」は「広い」、「狭」は「狭い」。字の通りだね。

☆広義(こうぎ)......言葉の意味する範囲のうち、広いほうのもの。=広い意味では〜、という意。
☆狭義(きょうぎ)......言葉の意味する範囲のうち、狭いほうのもの。=狭い意味では〜、という意。
#「義」は「意味」をあらわす。対義語や同音異義の「義」である。


21 聖 ←→ 俗
「聖」は日常的な価値観の枠をはみ出た、非日常的な存在。「俗」は日常的☆一般的な生活やその考え方。

☆神聖(しんせい)......日常的な存在から区別された侵すことのできないもの。清浄なものだけでなく不浄なもの(=ケガレ)もある。
☆世俗......世の中の風俗☆習慣。「聖なるもの」に対比して用いるケースが多い。
#対にしないと分かりにくい。「聖」というのは、非合理的なものだが、逃げられないほどの強い魅力を持つ存在だ。クリスマスの意味もなくうきうきした感じを思い出すといい。ところが「逃げられない」ことは同時に恐ろしいことでもあるわけで、ここから神様は怖れうやまう対象にもなる。
また、聖と俗は「ハレとケ」という分け方にも対応する。僕らのふだんの生活は、あれやこれやの細かいルールによって縛られている。逆にこうしたルールなしには、危なっかしくて社会生活なんて送れないだろう。このような日常的なルールによって支配される場を「ケ」という。「ハレ」というのは、「ハレ舞台」や「ハレ着」のハレである。非日常的な空間を指すわけだ。そこではふだんわれわれが従っている「決まり事」は無効になる。例えば、「仮面舞踏会」とかね。


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